2023-10-16# 物件(仙台圏)
東北整備局北上川下流/吉田川の治水事業計画/中流部の遊水地など具体化へ/関連コンサルは建技といであなど
浸水被害が相次いでいる県中部の鳴瀬川水系吉田川の治水対策は、東北地方整備局が8月末に鳴瀬川水系流域治水プロジェクト2・0を、管内では先行して公表した。ハード事業としては遊水地整備と河道掘削などを展開する。実施に当たっては、東北初の特定都市河川指定による枠組みも活かして取り組みの加速化を図る。東北整備局北上川下流河川事務所の石井貴範副所長は「数年ごとに甚大な被害に見舞われている地域なので、地方の流域治水のトップランナーとして、早期に対策をまとめられるよう関係機関と調整を進めたい」と意気込む。
吉田川の取り組みの特色は、流域治水の視点の一つに掲げた「命と生業を守る流域のサポート」が挙げられる。大郷町から下流側は水田地帯が広がるほか、大和町と大衡村には県内屈指の企業集積を誇る工業団地が位置し、産業面の持続性向上は主要なテーマとなる。そこで、令和元年東日本台風と同規模の降雨が発生しても家屋浸水はゼロとし、農地浸水もおおむね3日ほどで解消するといった目標を設けている。
吉田川の洪水被害をめぐっては、大和町中心部が冠水した2015年9月の豪雨を受け、吉田川・竹林川・善川の3川合流部付近で遊水地整備と河道掘削に取り組んだ。大和町落合地区の合流部から下流は断面が小さく、かつ緩やかな地形で増水しやすいなどの課題に対応するもの。竹林川遊水地の湛水容量は約62万立方㍍、同じく善川遊水地は約195万立方㍍。また大郷町粕川地区で堤防が決壊した19年10月の東日本台風を踏まえ、鳴瀬川と並行している下流区間の河道掘削と粕川地区の引堤などを施工中で、24年度までに完了予定。
これらの取り組みは、河道配分流量として毎秒1600立方㍍の水を流すことにしている河川整備基本計画に対し、8~9割の河道を確保することが狙い。また19年10月台風を受け、気候変動に対応すべく22年度に見直した整備計画(第5回変更)が流域治水プロジェクトのベースとなっている。8月末に公表した流域治水プロジェクト2・0は、気候変動で治水安全度が目減り(40年ごろまで気温が2度上昇すると降雨量は1・1倍に増加)することを加味し、必要な取り組みを反映した。
具体的には、吉田川中流部への遊水地整備、吉田川・鳴瀬川(水系)で約60万立方㍍の河道掘削、治水と農業の連携による排水機場群のコントロールなどを盛り込んだ(排水機場の整備計画は5日付1面に掲載)。さらに7月に特定都市河川指定を受けたことで、具体的な施策を盛り込んだ流域水害対策計画を策定するため、8月に流域水害対策協議会が発足。他地域の事例を見るとおおむね指定から1年程度のうちに同計画を策定している。計画の取りまとめは「鳴瀬川水系水害対策検討」でいであが行う。
また大郷町から下流側は、標高が低く水が流れにくい特性に加え、西川、身洗川、滑川、味明川など支川から吉田川に流れ込む水量が増えていることへの対策が求められている。下流側の幡谷サイフォン付近がコントロールポイントのため、支川の合流点付近で流入を抑制する遊水地の設置を検討中。河川整備基本計画によると湛水容量は約700万立方㍍を想定する。現在「吉田川中流部遊水地概略設計」を建設技術研究所が担当している。
幡谷サイフォンは、かつて吉田川とともに品井沼に流入していた鶴田川について、吉田川と分離し松島湾に引き込むため昭和初期に築造された、吉田川の下を交差して通過するRC造の7連で長さ約200㍍の構造物。そのため吉田川を掘り下げることはできず、川幅を広げる場合もサイフォンを延伸する必要があり、工事費との兼ね合いで大掛かりな河道断面拡幅は難しいとされる。
このほか、今後の河道掘削に向けて現在「吉田川河道掘削詳細設計」を三井共同建設コンサルタントが担当。東松島市と松島町では22年7月洪水からの復旧工事も実施している。
一方、吉田川の北側を西から東に流れる鳴瀬川では現在、美里町の練牛地区などで堤防強化に取り組んでいる。21年度から鳴瀬川練牛地区堤防整備事業として着手した。
東日本大震災の被害を受け、東松島市など下流側は築堤が進んだ。現在は国道346号感恩橋から上流側の主に左岸で、宅地が集積しているが既存堤防の厚みや高さが不足している区間を対象に、強化工事を行っている。
堤防強化の材料には、コスト縮減も考慮して吉田川の掘削工事で採取した土砂を用いている。今後も約60万立方㍍の河道掘削を予定していることから掘削土砂の活用を見込む。対象エリアは感恩橋から上流へ、新江合川との合流部付近まで延長12㌔㍍程度にわたり、10年ほどかけて整備する計画だ。
さらにその後は、上流部の大崎市三本木地区の市街地で、橋梁付近に宅地が形成されコントロールポイントとなっている三本木橋周辺の対策を検討していく見通し。