2024-07-29# 物件(仙台圏)
仙台市中心部でのテナントビル開発/建設費高騰も影響し新規開発には一服感/概ね1年以内に5棟竣工、4棟が建設着手へ
仙台市中心部のテナントビルの開発状況をまとめた。2019年7月に施策概要を公表した「せんだい都心再構築プロジェクト」は別表にあるように、これまで5プロジェクトが認定を受け、これらに続き定禅寺通り沿いに建つ仙台第一生命ビル建て替え計画なども認定を受ける方向で協議が進められている。
市内中心部では再構築プロ以外にも21年度以降、それまでほぼ凍結状態だったオフィスビル開発計画が相次いで具体化し、23年春以降に竣工したものが5棟、現在建設中もしくは着工間近なものが4棟ある(2面別表参照)。これに伴い空室率もやや高い状態にあり、三鬼商事の6月時点での調査内容によれば仙台ビジネス地区の平均空室率は6・34㌫と、依然6㌫台で推移している状況だ。今年から来年にかけては23年までのような新規供給に一服感が見られることから、緩やかに空室率は改善していくだろうとの見方が一般的となっている。
一方、新規供給ビルの事業主体を中央・地元資本別に見ると東北電力ほかによる一番町3丁目地区での市街地再開発事業以外は、一部の地元企業出資を含むSPCの事業主体を除き首都圏を中心とした中央資本が占めている。一昨年度後半に再構築プロの地元ビル業者によるエントリーが促された結果、非公式的に2社が選出され昨年度アドバイザー派遣などが行われたが、その後の建設物価の高騰およびこの収束が見通せない状況の中で、事実上凍結状態になったと見られている。
建設費高騰以前の状況下で、今後のビル開発計画が見込まれていたプロジェクトも本紙調査により別表(2面)にまとめてみたが、これらが始動するか否かは、JR仙台駅西口駅前のさくらの百貨店仙台店やEDEN(エデン)跡地同様に不透明感が漂う。昨年度以降からの予期せぬ建設物価の高止まりで冷や水を掛けられた感のある仙台市都心部開発だが、一方では都市規模に見合った街並みの現状維持を支持する声も聞こえる。
ある地元商工会関係者は「放置して損壊などの危険が及ぶ建物は別として、都心再構築プロジェクトの敷地面積的要件を満たすために周辺地権者の建築物まで巻き込むことへの是非について、『まちの記憶』が開発一辺倒の勢いで消されてしまう懸念を感じる」と思案顔で話す。旧来からの風情を色濃く残す盛岡市中心部などと違って、先の大戦の際に米軍の空襲により焼け野原と化した仙台市中心部にはこれといった歴史遺産が残っていない。中途半端に老朽化した既存施設は、新たな投資価値が見い出されれば経年による味わい深さがにじみ出てくる前に、土地の高度利用の更新を目的とするスクラップアンドビルドが恒常化し、一部からは「杜の都」の呼称とは程遠いリトル東京的な無機質な都市景観を生んでいるとの指摘もある。
近年はかつての経済成長時代に見られた投資効果を仙台での都市開発に見出しにくくなったことで都心部の飲み屋横丁の再開発を促そうとする動きも影を潜め、これがかえって観光客を呼び込むポテンシャルとなっていることも皮肉なことと言えそうだ。
仙台市では数年前から主に地元ビル業者らの活動に期待し、既存ビルを活用したリノベーションまちづくり事業にも力を入れ始めており今後の推移に興味が持たれる。