宮城県中部を東西に流れる吉田川流域で、排水機場の再編などを伴う国営事業化に向けた調査が進む。東北農政局北上土地改良調査管理事務所は２０２３年度から国営土地改良事業地区調査に取り組んでおり、全体実施設計を経て早期の事業化を図る考え。本年度は、東北地方整備局による吉田川の河川整備事業を考慮した外水位に基づく排水機場能力の検討などを進めている。

吉田川流域の排水受益面積は約４５００㌶。いずれも宮城県が整備した１９カ所の機場があるが、大雨での湛水被害が甚大化していることから、統合再編などによる排水能力強化に取り組む。事業化に当たっては国営総合農地防災事業（豪雨災害対策型）の適用を想定している。

吉田川の排水整備をめぐっては、１９年１０月の令和元年東日本台風を受けて、２２年９月に変更された河川整備計画に位置付けられた、新たな吉田川中流部の遊水地計画（容量７００万立方㍍）などを踏まえ外水位を設定し、２３年度までに想定した排水量を改めて検討した。また昨年７月、吉田川・高城川水系が特定都市河川の指定を受けたことから、吉田川・高城川流域水害対策協議会が流域水害対策計画の取りまとめに着手。国営総合農地防災事業を盛り込んだ計画として１０月ごろの策定を目指す。

既存施設は１９ポンプ場の合計で毎秒約７５立方㍍の処理能力を有するが、現時点では１６ポンプ場に再編し、合計で毎秒約１２５立方㍍の処理能力を確保する計画だ（表参照）。排水路についてもポンプ場再編と勾配の見直しを受けた改修が必要となる。

また本年度は土地改良事業計画の作成や、機場に関する構造協議なども行っている。先立って開かれた、土地改良区と自治体などで構成する吉田川流域国営土地改良事業促進協議会の通常総会では、伊藤康志会長（大崎市長）が「地域を自ら守る『吉田川モデル』として全国に発信したい。早期採択へしっかり取り組みたい」とあいさつした。副会長である鶴田川沿岸土地改良区の千葉榮理事長は「一日も早い事業化へ、要望活動を活発化させていこう」と呼び掛けた。

現時点の計画を下流側から見ると、東松島市の中下（しも）排水機場は浅井排水機場と統合し、毎秒５・６立方㍍の機場として新設する。同じく若針排水機場は、能力を倍程度に増強し毎秒８・３立方㍍の機場として建て替える。

松島町にある前蒲（かば）排水機場は藤ノ巻排水機場と統合し、毎秒７・６立方㍍の機場として新設する。弥勒堂排水機場は排水受益面積が１００㌶に満たないため、関連する県営事業での改修を想定。対岸の大崎市鹿島台にある山王江排水機場は、品井沼排水機場の増強により排水流域面積を区分し、既存施設を補修して現能力を維持する。

幡谷排水機場は既存の毎秒４・３立方㍍を毎秒５・２立方㍍に、不来内排水機場は同じく毎秒５・３立方㍍を毎秒５・８立方㍍に、志田谷地排水機場は同じく毎秒８・５立方㍍を毎秒９・０立方㍍に、いずれもポンプやエンジンの出力増強によって排水能力増強を図る。

品井沼排水機場は、大雨の際に鶴田川から品井沼遊水地への流入が生じるケースを想定し、排水路への逆流を防ぐため改築による能力増強を立案。毎秒１４・６立方㍍の規模で建て替えを計画している。

大郷町の前川排水機場は、毎秒１０・２立方㍍の既存施設を今後も活用しながら、毎秒１２・３立方㍍の機場を増設し、毎秒２２・５立方㍍を確保する。羽生（はにゅう）排水機場は、毎秒３・７立方㍍の規模で建て替えを計画する。後谷地排水機場と中村排水機場は統合し、毎秒９・１立方㍍の機場として新設する。

大和町にある三ヶ内（さんがうち）排水機場は、毎秒２・７立方㍍の規模で建て替えを想定。檜和田排水機場は毎秒３・２立方㍍の既存施設を活用しながら、毎秒３・６立方㍍の機場を増築し、毎秒６・８立方㍍を確保する。

西川排水機場はポンプの出力増強により、既存の毎秒４・６立方㍍から毎秒５・６立方㍍の施設に強化する。大平（だいら）排水機場は毎秒１・５立方㍍の既存施設を活用しながら、毎秒３・８立方㍍の機場を増築して毎秒５・３立方㍍を確保する。

主な関連業務の委託状況は、２２年度発注の「事業構想検討」はサンスイコンサルタントが担当。２３年度は「統合排水機場ほか概略設計その他」（対象は中下と浅井、前蒲と藤ノ巻、後谷地と中村など統合機場）と、「排水機場ほか概略設計その他」（品井沼機場と志田谷地機場）、「前川排水機場ほか基本設計」（前川機場と若針機場）をサンスイコンサルタントが担当。２４年度は「中下統合排水機場基本設計」（中下と浅井の統合機場）を三祐コンサルタンツ、「後谷地統合排水機場ほか基本設計」（後谷地と中村の統合機場と三ヶ内機場）をサンスイコンサルタントに委託している。